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土木のこころ

 エンジェル・レポート(90

   ~土木のこころ

 

 

 

 

 建設業に関する作品を執筆されてきたノンフィクション作家に

田村喜子(故人)さんという方がおられます。

 

その著書の一つに「土木のこころ」というものがあり、

琵琶湖疎水や台湾の烏山頭ダム、関門海峡トンネル、黒部ダムなど

日本の土木史をつくってきた20人のシビルエンジニアの話が

書かれています。

 

この本の冒頭に筆者が取材したときの技術者たちの言葉が

綴られています。以下に引用します。

 

 

 

「この道はぼくがつくったのです。ワン・オブ・ゼムです」。

土木とは、大勢の人間が心と力を一つにして取り組むものだと

いうことを、私は教えられた。

また別の技術者はいった。「土木屋は岩着にかかっているときに、

いちばん燃えます」。人目には触れない基礎づくりこそ土木の

本質であることに私は感銘を受けた。

 

「恵まれない人たちに、すこしでも暮らしやすい社会資本を

つくりたい、そんな思いでぼくは土木を選びました」

「ぼくたち土木屋にあるのは、3Kではなく、完成させたときの

感動のKです」と熱っぽく語った土木技術者たちを私は忘れる

ことができない。

 

 

 

私たちが生まれるずっと前から、この国にはさまざまな

交通インフラ、ライフラインが整備されていました。

 

でも、それらを当時の技術をもって、命がけでつくった人たちが

いたのです。

 

綿密な取材と事実関係に基づいた内容。

そして何よりも筆者が、土木技術者たちの心に触れ、その熱量を

冷ますことなく、歯切れのいい文章で見事に書き切ってくれています。

 

 

翻って、戦後数十年で、目覚ましく発展した現代では、

より高度な技術、より難しい工事が求められています。

 

すでに廃刊となっていたこの「土木のこころ」が、この度復刻版として

世に出たそうです。

 

 

最期に、もう一つ本文から引用させてもらいます。

 

 

「橋は工場で組み立てて、現場で架設するものだが、

ぼくたち橋架け屋は橋に命を与え、魂を入れているんだ」。

 

 

現場の皆さんがつくった数々の構造物は、

この先もこの国を支え続ける「魂」になります。