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エンジェル・レポート(80) ~100年後も輝き続ける技~

 

 

挾土秀平という名をご存じの方も多いかと思います。

 

挾土さんは、TVや雑誌でもよく紹介されている左官職人です。

私が知ったのは、NHKの「プロフェッショナル」という番組

でした。

 

土壁の第一人者として、今では海外からもオファーがあり、

世界中で彼の「作品」がたくさんつくられています。

 

先日、その挾土さんの講演を聞きました。

 

挾土さんの経歴や実績、作品の数々はネットでも簡単に探せる

のであえて割愛させていただきます。

 

その講演の中で、挾土さんはカッコをつけるわけでもなく、

ドヤ顔をするわけでもなく一人の職人として、いや

一人の少年のようにワクワクしながら話してくれました。

 

「この壁は、明治時代につくられた土壁です。当時の職人たちは、

100年後のことを想像してこれをつくったんです。

この光り輝いている壁はすべて左官仕事で、漆喰の黒磨きという

技法です。

100年たっても輝き続けているんです。

泣けてくるほど美しいと思いませんか。

僕はできることならこれを切り取って持って帰りたいくらいです。

日本の伝統技能である『土』という素材は、100年、200年たっても

まだ使えるんです。

こうした仕事は、技能、素材、スピードそして常に勉強し続ける

人にしかできないです。」

 

「僕は、今でこそいろんなところで注目されていますが、あまりに

人と違うことをやるんで、しばしばバッシングを受けました。

でも、まじめにやっているんです。

奇抜さだけではなく、最高の仕事をしようとしているんです。

だからその仕事の一つひとつにストーリーがあります。

それをわかってほしくて、葛藤していたころに書き綴った日記を

お客様に見せたこともあります。

それくらい自分がやっていることに信念があれば、どんな批判に

だって耐えられるんです」

 

「僕らは、海外に呼ばれて仕事をしたこともあります。

外国の人がその仕事を見て、日本人の技術は『神』だといって

くれます。

でも、こんな仕事ができる人は、今の日本にはもういないんです。

土壁はなくなり、プラスターボードになりました。

木の癖を見ながら100年後にどんな変化をするかを想像して組み

立てる大工がいなくなり、工場でプレカットされた材料を組み立

てるだけになりました。

日本人は、こんなすごい技能を持っているのにそれを無くすなんて

信じられないといわれました。

でも、正直もう遅いんです。

職人がいなくなったということは平成の初めぐらいから言われ

はじめました。

僕たちが、弟子を育てようとしてももう遅いんです。

本物の職人を育てるのに30年かかります。

だから僕は今、腕のいい職人を集めて最高の技で最高の作品を

残そうとしています。

僕らが死んだ後もその作品は何百年と残ります。

ある時とんでもない奴が現れて『これってどうやってつくった

んだろう』と考え、苦労してこの技法を再生してくれることに

期待しているんです。」

 

圧倒されました。

その技や輝かしい経歴、作品にではなく、挾土さんの情熱に。

 

損得なんかではなく、純粋に左官という仕事にかける思いに

震えました。

 

『神』と呼ばれる技を持つ人が、この国にいます。

それが未来のあなたかもしれません。