「 真摯に耳を傾ける」
その現場は、商業施設をつくるという民間発注の造成工事でした。
区画整理後の道路は、市に移管するため、打合せにいったところ「工区の一区画にうるさいおばあさんの畑があって今まで道路を整備できなかった」と言われました。
現地を測量するとおばあさんの土地からはみ出るように樹木が生えています。
畑というより小さな雑木林のような土地でした。
なるほど、うるさい(?)おばあさんから逃げるようにその一角だけ道路側溝も整備されていません。
僕は、おばあさんと仲良くなるしかないと思い、毎日挨拶をし、世間話をしました。
すると、道路にはみ出たイチョウの木は、おじいさんとの思い出の木だといわれます。
造園屋さんに言わせると、なんの価値もない木だそうです。
でもそれは、おばあさんにとってかけがえのない木に違いなかったのです。
そこで僕は「この木を土地の真ん中に移植しますよ」と提案しました。
なんの価値もないといわれたイチョウの木に、きちんと根回しや施肥を行い、クレーンを用いて丁寧に移植しました。
その後、おばあさんから、感謝のしるしにと林になっていた花梨の実をもらいました。
市役所の人が対応しても、どうにもならなかった問題が解決したのです。
現場事務所は花梨の実のさわやかな香りが満ちていました。 (30代 男性)

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